あなたのそのぬくもりが大好きでした。


13:ぬくもり


 

仙道の手が好き。暖かい手が好きだ。
例えば優しく髪を梳いてくれるところとか。
例えば何も言わずに抱きしめてくれるところとか。
例えば激しく愛撫してくれるところとか。
全部が好きだった。
オレのより少し大きくて、長い手。
だから仙道の手が好きだった。


いつもの情事のあと、いつものようにパタリとベッドに横たわる。
オレも仙道も男だし、別に行為自体が嫌なわけではないのだが、やはりキツイものはキツイ。
「大丈夫か?」
仙道が聞いてきたが答える余裕なんてもうなかった。
とにかく眠い。この調子だと昼まで爆睡だろう。
まどろむ意識の中でふと仙道の体温を感じた。
大方、仙道が頭を撫でてくれているんだろう。
それがとても気持ちよくて、心地よくて…
改めて仙道の手が好きだということを実感する。
「おやすみ」
仙道のその声と共にオレは深い眠りへとついた。

「オマエ、俺の手好きだよなー」
ある日、仙道がオレの髪を梳きながら言う。
「…なんで」
分かってしまったのが悔しくて。つい誤魔化そうとする。
「だってこうやってるときのオマエの顔、すっげぇ幸せそうだもん」
それはほんの些細な表情の変化だったと思う。
他のヤツには分からない。
だけど仙道は…仙道だから気付いてくれた。
「別に…そう見えるだけだ」
そのことがとても嬉しかった。
「あーあー、またそんなこと言って。
 暖かくて気持ちいいだろ?」
「…手のあったかいヤツは心がつめてーんだぜ」
少しだけムカッときて、そしてやっぱり恥ずかしくて最後の言い訳をボソリという。
「うわっ、ひっでぇなあ。こんなにもオレ暖かいのに」
その顔が傷ついたようだったからチクリ…と胸に針が刺さる。
言いすぎだっただろうか。本気で言ったわけじゃなくて…照れ隠しのつもりなのだが。
そんな表情に気付いたのか、少し微笑んで
「わかってるよ」
そう仙道は言うと髪の毛へそっと唇を落とした。


しばらくがたって秋がやってきた。
仙道が見せたい物があるからと、山へ連れられる。
こんな山奥に何があるのだというのだろうか。
「なぁ…仙道。いったいいつまで…」
「ほらもうすぐだから」
その言葉を何回聞いただろう。もうかれこれ30分は歩いている。
「ほら着いたぜ」
「?なんもねーじゃねーか」
すると、さあーっと風が吹く。
その瞬間たくさんの葉が宙に舞った。
「すげぇ…」
その光景は本当にすごくて。
とても大きなその木は威厳と壮大さを物語っていた。
何百年も前からここに居座っていたのだろう。
その木を見ていると、自分がなんだかちっぽけな存在に感じる。
ひょいっと仙道が葉のひとつを拾うと
「なぁ…この木さ、なんの木か知ってる?」
はい、とその葉をオレに渡しながら聞いてくる。
「…?モミジか…?」
その葉は5つの手をもっていた。
「流川だよ」
「は?」
「だから…楓の木なんだ、これ」
「え…」
確かに植物であることは知っていたのだが、
自分の名前の木なんて見たことがなかった。
仙道がこの前この木を見つけたらしい。
言葉が出なかった。
たとえ見つけたのが偶然でも、仙道はオレに見せたいって思ってくれたんだ。
幸せだった。
仙道と一緒にいて。仙道がそばにいてくれて。
このままずっとこのときが続けばいいのに――
でも現実はそう簡単にはいかないこと、甘くはないことを知った。
その後、仙道からの連絡はぱたりと途絶えてしまったのだ。


陵南の仙道が倒れた。
そんな噂を耳にしたのは冬。
急いで病院へ行き、看護婦の制止も振り切り233号室の扉を開いた。
「…っ!!」
息が止まりそうになった。
こんなにも仙道は痩せていただろうか。
あんなに無駄のなかった筋肉質の体はいつの間にか衰えていたし、
顔色もすごぶる悪い。
人はこんなに短い間にここまで変わるのか?
これがあの仙道なのだろうか。
夢であって欲しい。
でも、これは現実で。逃げることの出来ない事実で。
そう考えたら急に目の奥がじわり…と熱くなった。
「るかわ…」
弱弱しい声で仙道は名を呼ぶ。
「なんでっ…!?なんで言ってくれなかったんだよ!」
いろんな感情が入り混じって思わず叫んでいた。
なんでこんなになるまで言ってくれなかったんだろう。
仙道がなにも言ってくれなかったことへの怒りと
気付いてやれなかった自分に苛立とで…
泣いた。
目からは涙がどんどん溢れてくる。
「…ごめんな…心配かけたくなかったんだ…」
ポツリと仙道は言う。
「それでもっ!それでも一緒に悩むことは出来たはずだ!」
「…」
「なんで…なんでお前一人で背負わなくちゃいけねーんだよ!」
オレだって仙道の力になりたかった。
いつも仙道はオレを支えてくれて…だからオレも仙道を支えたかった。
たとえそれが仙道にとって迷惑でもオレはそうしたかったんだ。
「ありがとう…流川。オレ、幸せもんだな…」
仙道は笑った。弱弱しかったけど、いつものあの笑顔で。
「ほら、もう泣かないで…流川の悲しい顔はみたくないよ?」
すっと仙道のあの手が伸びてきた。
いつもいつも優しい手。
そしてその指はオレの涙を拭ってくれた。
「せんどー…」
「流川…愛してる…」
俺たちは抱き合った。ずっとずっと抱き合った。
それこそ息が出来なくなるほど。
こんなに近くにいるのに、とてもとても切なかった。
このまま溶け合ってひとつになってしまいたい。
そうすればこうやって悩むこともないのに。
こんなに苦しい思いをすることもないのに。
いつでも一緒にいられるのに。



季節は巡り、あの楓の木の新芽が顔を出すと共に春がやってきた。
たんぽぽは咲き乱れ、蝶なんかも飛んでいる。
気温はとても暖かくなったし、道行く人々の顔は心なしか嬉しそうで…
だけど…
雲ひとつない真っ青な空を見上げた。
つぅっと頬を一筋の涙が伝う。
それは春の優しい太陽に照らされてきらきらと輝いていた。

「なぁ…仙道…今だけは泣いていいよな」

だってもう、仙道の手は冷たくなってしまったのだから。

 

END


11111ヒットを踏んでくださった京地さんのリクエストです。
「笑う流川」か「泣く流川」だったのですが、笑う方は私には無理だったので(笑)泣くほうにさせていただきました。
うーん…また死にネタですね…
よく飽きないなぁ、私。とつくづく思います。
京地さん、遅くなってしまった上にこんなよく分からない小説でごめんなさい!

2004.5.5


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