07:留守番電話


口論になるのはいつものことだ。

「だから…聞いてるのか?」
いつもより少々きつい声色で仙道が尋ねる。
「…うっせーな」
しかし流川は、チッと舌打ちをして再びテレビへと視線を移した。
両手はソファの上へ投げ出し、足はテーブルの上に。とても人様の家に来ている態度ではない。
そんな流川にムッときたのか
「うるさいはないだろう」
と、仙道は言い返した。
「…」
そんな言葉にもまるで聞こえていないかのように振舞い、完全に無視状態である。

テレビでは数人の漫才師がコントをしており、大きな笑い声が聞こえている、が今この状態はとても笑える雰囲気ではない。
2人は笑わない、しゃべらない。一気に険悪ムードが流れる。
テレビの音だけが、妙に部屋に響いていた。



先に沈黙を破ったのは仙道だった。
はぁー、と大きなため息をひとつつくと頭をぽりぽりとかいた。
「あー、ごめん悪かった、」
だから話を聞いてくれ、と仙道は謝ってみせる。
精神的には仙道のほうがやはり大人なのだ。
そう、折れるのは仙道で、いつものことだ。
だからいつもはここで流川が、わかった、と言って仲直り。
そういつもなら。
しかし今日は違った。

「…あんたさぁ、」
視線だけ仙道に移した流川は、
「いっつも謝ってて、むなしくなんねぇの?」
軽く見下したような冷笑をうかべ、そう吐き出す。

仙道はその言葉にカッと全身の血が煮えたぎり、気付いたときには流川を殴っていた。
仙道の右手が、流川の左手がじんじんする。
体が吹き飛ばなかっただけ、さすが流川といったところだろうか。

「なっ…」
いきなりのことでしばらくぼーっとしていた流川だったが、我に返ると目を見開き、信じられないという顔で仙道を見ていた。
仙道が殴るなんてことは、いつものこと、ではない。

「出て行ってくれ」
冷ややかに仙道は言う。
「っ…」
流川は何か言いたそうな顔をしているが、仙道を睨むことしかできない。
「聞こえないのか?出て行けといったんだ」
冷たい、冷たい視線が流川を突き刺す。
どうせなら一発殴って出て行ってやろうと思った流川だったが、止めた。
ガッと荷物を引っつかむと、すごい音を立てて玄関を出た。

テレビではあの番組がまだ続いており、いっそう大きな笑い声が漏れていた。
おそらく人気の漫才師が出ているのだろう。
その笑い声が不愉快で、仙道は乱暴に電源を消した。



++++++++



「流川…あんたどうしたの?」
長時間に及ぶ練習もやっと終わり、湘北高校バスケットボール部は片づけを始めている。
流川は壁に寄りかかって座り、汗を拭きながらスポーツドリンクを飲んでいた。

あの事件から5日。仙道とはまったく連絡を取っていない。
しかし、気になっているのは事実で、練習に身が入らず、何度も何度もミスを重ねていた。
「この前右頬腫らして学校に来たときからなんかおかしいわよ?」
そんな流川が心配になった彩子は声をかけた。右頬の腫れも、すっかり治まっている。
「別に…なんもねーっすから」
ふい、と顔を逸らすと流川はそう答えた。
「…アンタがそう言うんならいいけど」
彩子はまだ納得してない顔だったが、それ以上はなにも聞かなかった。

今回のことは流川が悪いのが明らかだった。
口論になるのはいつものことだったけど、あそこで大人しくしていればこんなことにはならなかったのだ。

はぁ、とため息を落とすとそのまま帰っていった。
いつもの自主練もずっとやっていない。
そんな流川にバスケ部員は顔を見合わせ、ただただ首をひねるばかりだった。


流川はめずらしく悩んでいた。

もしかしたら、仙道が何事もなかったように電話をしてくるかもしれない。
そう思って数日は待っていたのだが、まったく音沙汰がない。
やはりそれほど怒っているのか。
気にしまいと思っていても、頭から離れず、どうしようもなかった。


自分が悪いことをしたと思ったのなら、謝りなさい、
幼いころ喧嘩して帰ってきたとき、母親がそう言っていたような気がする。
謝る。
プライドが高い流川からしてみれば、それは大変なことだった。
しかし、悩んでいる暇はない。このままでは、ずっと練習に集中できない。
考えるより先に、近くの電話ボックスへ駆け込んでいた。



+++++++



家に帰ると、留守電のランプだけがチカチカと赤く点滅していた。
リビングの電気だけをつけ、ピッとボタンを押す。
今日の練習も疲れた。
ソファに腰掛け、録音されたメッセージを聞いた。

ピーという音の後に、機械の女性が3件入っています、と告げる。
1件目は、いないとわかっるとすぐに切れた。
ガチャン、という音が響く。
大して気にもせず、2件目を聞く。
今回は切られなかった、が、5秒たっても、何も声が聞こえてこない。
さすがにおかしいと思ったのか、仙道は立ち上がると電話の前まで来る。
壊れたのか?と、調べようと思った、その時、

『ごめん』

という小さな声が聞こえた。
その声の主は、それだけ言うとカチャリと電話を切ったようだ。
仙道は驚いてしばらく動けなかった。
名前を名乗らなくてもわかる、間違うはずがない。

3件目は、もう、耳に入っていなかった。


5日たった今、すでに怒りは治まっていた。
さすがに殴るのは、やり過ぎだったか、とその場の感情で物事を判断したことを深く反省していた。
そろそろ電話でもしよう、そう思っていた矢先のことだった。

嬉しい。
驚いたが、それ以上に嬉しかった。
自然と顔が緩んでいくのが分かった。

急いで時間を確認する。午後11時。まだ起きているはずだ。
仙道は受話器を持ち上げると、番号を押す。
もう、何度この番号にかけただろうか。覚えていない。

ぷるるるという音を聞きながら、どう切り出そうか、
仙道は幸せな顔で悩んでいた。

end




本当に久しぶりの小説だ…;;
あー、これ実はマサムネさんが踏んでくださったキリリク「修羅場な仙流」だったりするんです…
ていうか、どこが修羅場やねん!って感じですよね;;

こんなにも待たせておいて、こんな小説ですみません; うーん…小説って難しいや。…流川にも殴らせておけばよかったかな(おい)
ああ、ちなみに15000ヒットのリクです。何ヶ月前なんだろう…

2004.11.21
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