気がつけば朝だった。
いや、朝かどうかは定かではない。ただ、カーテンの隙間から零れる日の光が、夜ではないことを証明してくれた。
まだ夢見心地のまま、ぼーっとした頭を働かせる。が、なにも考えることができない。
信じられないくらい気だるく、時計を確認する気力もおきなかった。仕方がないので、ゴロンと寝返りを打ってみて、そこで初めて驚いた。

―いつもと天井の色が違ったからだ。
流川の意識は一気に、とまではいかないが、確実にはっきりとしてきた。
なぜか一糸も纏わぬ姿で流川は寝ていた。
そういえば天井だけではない、肩からかかっているシーツも、頭の下にある枕の柔らかさも、明らかに自分の物とは違う。
そして何より…これはあの男の香りではないだろうか。

そこまで考えて、ゾッとした。

付けている香水の匂いは知らないが、これは彼の匂いだ。
流川自身はわからなくても、流川の昨晩の体が覚えている。
かちり、と歯車が合うかのように、流川の昨晩の記憶は覚醒された。


そう、流川は昨晩、この部屋で、このベッドの上で、仙道と抱き合ったのだ。

どうしてそういう経緯に至ってしまったのかは忘れてしまった。
が、自分の体のいたる所に残る薄紅の跡や、床に散らばる衣服の数々から、夢ではなく現実に起こったことなのだとわかる。
おそらく意識が朦朧としていたのであろう、最中のことは断片的にしか思い出すことが出来なかった。


ただ鮮明に覚えているのは、彼の声、彼の手。
泣きたくなるような焦燥感や、挿入時のなんともいえない圧迫感、そして微かに感じた喜びと、同じくらいの悲しさ。


後悔は、していない。


そういえば嘘になってしまうかもしれないが、こうなってしまった事に対して、よかったと流川は思っている。
彼のことは、少なからず知りたいと思っていた。
昨晩見せた彼の表情は、試合中では決して見れない。
体を弄られる感触も、掌の熱さも、息遣いも、全てが初めてで。
流川は全身で彼を知り、感じる、ことが出来た。
それは仙道という人物の、たった一部分にしか過ぎないかもしれない。
しかし、たって一部分でも、彼の奥底に眠っている、本能やそういったものを垣間見る事が出来たのだ。


後悔、という言葉でくくるのならば、ただのライバルから、言葉では言い表せない関係になってしまったこと。
それだけだった。




そういえば、彼はどこへ行ってしまったのだろうか。
もぞり、と重たい身体を動かして隣を確認するも、人がいた形跡だけがあり、そこには誰もいなかった。
すると、微かだが水音が聞こえた気がする。
おそらくシャワーを浴びているのだろう。しばらくすると、その音も止み、ひたひたと廊下を歩く音がする。
もうすぐ、目の前のドアが開くだろう。

カチャリ、と音がして、流川の意識はそこに集中した。
思ったよりも大きな音を立てながら開いたドアからは案の定仙道が出てきた。
ところどころ破れたジーンズをはき、上半身は裸だ。髪はしっとりと濡れ、薄い水色のタオルでガシガシとそれを拭いている。
と、流川の目が覚めていることに気付くとピタリとその行為をやめ、その場で固まってしまった。


「…」
仙道の口が何か発しようとして開く、が、それは声にはならず沈黙が続いた。
仕方ないので、ふぅっと息をついて

「…シャワー、借りる」
と、流川が立ち上がりながら言うと、酷く驚いた顔をしてそれから、ああ、と短く仙道は答えた。










ぬるめのシャワーを軽く浴びた後、とりあえず、流川も下着と昨日はいていたジャージとTシャツを身につけて、部屋へと戻ると、ベッドの上に仙道が腰掛けていた。
流川の姿を認めると、はっと軽く目を見張り、それから首をうなだれてうつむいた。予想通り何もしゃべらない。
後悔を、彼は後悔をしているのだろうか、こうなってしまった事に。何も言わないのがその証拠かもしれない。
悔しい。少なくとも自分は喜びを感じたのに、と流川は思った。やはり知りたいと思っていたのは自分だけだったのか?
それを確かめたくて、


「仙道」


優しく―流川にしては珍しく穏やかな声で彼の名を呼んだ。
ぴくり、と肩が微かに揺れ、ややあって、

「…ごめんな」
という小さな声が返ってきた。

ごめん。

謝罪の言葉だ。
やはり、後悔なのか。
そう思ったら、理由のない怒りがふつふつとこみ上げてきた。
後悔をするくらいなら初めから何もしないほうがずっとマシだ。

どうして、何故謝るのか。


「え?」


どうやらいつの間にか言葉にしていたらしい、やはり驚いた表情をして仙道が顔を上げた。
だから、伝えた。流川は自分が思っていることを、そのまま。
しばらくぽかんとした顔で聞いていた仙道が、再び俯いてしまった。
たくさんに気持ちをありのままに伝えたというのに、仙道はなにも言ってくれないのかと、流川は酷く落胆した。
が、その肩が微かに震えているのを見て、それ以上に驚愕した。



くつくつと、笑っていた。

涙を流しながら、困った顔をして。

仙道は、笑っていた。

小さく『よかった』と呟きながら。



―ああ、そうか。仙道も嬉しいのか。

それがわかった瞬間、流川も笑った。
胸が痛いくらいにいろんな思いが混ざり合って、少しだけ苦しかったけど、
でも、やっと通じたような気がした。



そうだ、

後悔は、していない。



仙道を抱きしめながら、そう思った。
すべてが、いとおしかった。




『たとえ言葉がなくても』
この気持ちを身体中で伝えたい、感じ合いたい

ぷらすシリーズその2
4月のチャットで宣言したとおり、付き合ってないのにHをしてしまう2人を書いてみました。
が、やっぱり微妙だなぁ…本当はこんな終わり方じゃなかったんですけどね(笑)
仙道さんがへタレで、流川が潔いですね(笑)
これはあれですね!サブタイトル「言葉より、身体で伝える」(!?)
…我ながら、アホだなぁ。
2005.4.29

 

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