電車


海沿いを走る江ノ電は心地よく揺れている。
案の定窓からは海が見えていて、きらきらと輝いていた。
ガタンゴトン…ガタンゴトン…
電車の音が子守唄を奏でているようで、眠気を誘う。
大きなあくびをひとつすると、今日一日をどう過ごすか考えていた。
シューっという音を立てて江ノ電は止まる。
ドアが開くと共に待ってました、とばかりに人が乗り込む。今日はそんなに客が多くないらしい。
数えるほどしかいない乗客をぼんやりとして見ていると、ふと、大きな黒頭が視界に入った。
そいつは空いている席を見つけるとドカッと腰を下ろし、俯いてしまった。
あそこにいるのは―

「よぉ。流川じゃねーか」
「…?」
呼ばれた相手はゆっくりと顔を上げる。
そして、俺の姿を確認すると一瞬、驚いたような顔を見せた。
しかし、それもすぐにいつもの顰め面にもどる。
「何してんだ?こんなところで。めずらしいな」
「別に…」
ふい…と流川は顔をそらす。

ガタンゴトン…ガタンゴトン…
再び江ノ電が動き出した。
改めて流川を見る。
整えられた顔、綺麗な黒い髪―
どこをどう見ても女の子にもてそうなのに、
噂ではバスケのことと寝ることしか頭にないらしい。
珍しいやつだと思う。
こんなにもバスケに夢中で、他のことは頭にないなんて―

思えば俺もそんな時期があったな、としみじみ思い出す。
あの頃は本当にバスケが楽しくて、時間がたつのもすっかり忘れて練習した時があったっけ。
でも、いくら努力しても「アイツは天才だから」そういわれるだけだった。
誰も俺の努力を認めちゃくれない。
先輩を押しのけてレギュラーを勝ち取った日は本当に嬉しかった。
やっと、やっと認められたんだって。
でも、その日先輩達から呼び出され俺はぼこぼこにされた。
悔しかった…辛かった…
なんで、俺がこんな目に遭わないといけないのだろうか。
自分達はたいした努力もしてないくせに―
俺はどうしようもないくらいの怒りでいっぱいだった。
それと同時に、世の中はこんなものなんだ、と悟った。
努力している者が損をし、ずるい者が得をするのだと。
だから俺は怠けることを覚えた。
天才、と言う言葉を利用してやるんだ―
それ以来、先輩から色々言われなくなった。
実力の差は圧倒的だったから。
でも俺は普通にバスケしたかっただけなんだ。
天才なんかじゃなくてもいい。確かに勝つことは面白い。
でも、俺はそれでも純粋にバスケを楽しみたかっただけなんだ。
あの頃から俺、変わっちゃったんだなぁ…

いつの間にかそんな事を流川と話していた。
正確には俺が流川に話しかけていた、のだが。
「なんで俺って天才って呼ばれちゃうのかなぁ…」
自虐的に俺は笑った。
今俺はどんな顔をしてこの言葉を言っているのだろう。
辛かったあの頃。
思い出したくもない過去。
そして汚い自分。
何もかも。

しばらくして流川が口を開く。
「くだらねー」
いきなりこんな話をされて当たり前といえば当たり前なのだが、
一応俺はこんなにも悩んでいたのに、くだらねーの一言で済まされてしまっていいのだろうか。
しかし、所詮流川。何も考えていないのがオチだろう。
しかし、やはりショックなものはショックだ。
少しは慰めの言葉をかけてくれたっていいではないか。
(そんなことを望んでいるわけではないが)
そもそも、なぜ俺はこんなことを話しているのか。
バスケ部というだけで、年下、しかもライバル校のエースだ。

こんなこと、誰にも話したことがなかったのにな。
何やってんだろ俺――そう思った瞬間
「天才だとかそんなのかんけーねー」
「…え?」
今、コイツはなんと言った?
関係ない?
グルグルとまわる頭の中で流川の言葉を整理する。
しかし、あまりにも衝撃が大きすぎる。
関係ない。そんな事をいわれたのは初めてだった。
いつも、いつも「天才はやっぱり違うよな」とか
「凡人は所詮天才には勝てねーんだよ」とかやる前から言われていた。
そんなこと、やってみないとわからないのに。
しかし、流川は違う。関係ないと。そう言ってくれた。

「てめーは俺が倒す。それでじゅーぶんじゃねーか」
流川はそれだけ言うと、じゃあな、と電車から降りていった。
俺は涙が零れそうなのを必死でとどめるのに精一杯で、返事をすることが出来なかった。
なにか、大切な何かを見つけたような気がした。


end




web拍手に掲載していた物を移しました。
魁仙流祭に投稿したものをそのまま使っていました(おい)
結局これしか投稿できなかったんだよなーとか思ったり(笑)
これもなんとなく思いついたのでぱぱーと書いた気がします。
仙流祭に投稿したのはこれよりちょっとだけ長かった気がします。
でも、投稿した原稿なくしちゃったから前のヤツで(笑)

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