タバコ


携帯に電話をかけた。
しかし。
いつもの聞き慣れた声ではなく、
使われておりません、という機械的な声。
嫌な予感がして、急いでアイツの部屋に行く。
持っていた合鍵で扉を勢いよく開けた。

するとそこには白い壁、壁、壁。
本当に何もなくて、
もうこの部屋の持ち主はいないのだということを嫌でも思い知らされる。

そう、いつも使っていた対のマグカップも、
2人が座れるほどの大きなソファも、幾度の夜を過ごしてきたあのベットも、
何も、ない。
この部屋はこんなにも広かったのだろうか?
まるでそこには初めから人がいなかったような錯覚さえ起こす。
あの頃のことは全て夢のように思えてくるのが不思議だ。
それこそ何時間、何千時間と過ごしてきたのに変な話だと我ながら思う。


ふと、床を見ると何かが落ちているのに気付く。
そこにはタバコ―いつもアイツが吸っていた―が1箱とライターがひとつぽつんとあった。
オレはそこに入っていた最後の1本を取り出すと火をつけた。
じじっという音とともにタバコの先が赤く光る。
ふうっと、アイツがやっていたように煙を出す。
ああ、これはアイツの匂いだ、と思い眼を閉じる。
そうするとアイツが隣にいるようで、あの笑顔を向けていそうで…。だが眼を開けるとやっぱりそこには誰もいなくて。
少しだけ空しい気持ちになった。
バカらしい…そう思って吸い終わったそれを箱の中に入れようとした。かさり。
手紙のようなものが入っていた。
メモ帳の切れ端か何かだろうか、
なんだろうと思い開けてみる。
そこにはアイツの字で一言だけ

ゴメン

と書かれていた。

何に対して謝っているんだ、コイツはと思う。
何も言わず出て行ったことについて?
勝手にこの関係を終らせてしまったことについて?
そうか、アイツはもううんざりしていたんだ、この関係に。
もう、疲れていたんだ、この関係に。

…違う。終らせたかったのは自分。
この関係にうんざりしていたのは自分。
なにより、この手紙を見てホッとしているのも自分。
そう。オレが、オレ自身が終らせたかったんだ。
アイツはとっくに気付いていたのかもしれない。
もうこの関係は長くは続かないということに…。
くしゃっと手紙を握りつぶしタバコと共に箱へ入れて窓から投げ捨てた。
やがてそれは茂みの中に落ちて見えなくなった。
さぁっと冷たい風が吹き抜ける。
もうすぐ冬がくる。寒い寒い冬が。
もう暖めてくれる人はいないけど、これでよかったんだと思う。


ポツリ、ポツリと手すりに水滴が落ちた。
それは雨でもなんでもなくて、
自分自身の涙なのだということに気付いた。






END


 
ふと思いついたものです。
めずらしく悲しいお話になってしまった…。
これはどちらがどちらと、はっきり表記してないのでどちらでもいいです。
でも、やっぱり出て行ったのは仙道さんになるかな?

タバコはなぜかマルボロ。
お父さんが吸ってるんだよー。赤だけど。


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